全編手書きのアニメーション映画「音楽」を見ました。
この映画の存在を知ったのは何年前になるでしょうか。
パイロット版をYouTubeで見たのは4,5年くらい前だった気がします。
その後しばらく情報がなかったため制作が頓挫してしまったのかな、と思っていました。
それが昨年公開されると発表されそれからは楽しみに待っていました。
見た感想としては大満足!
というか大傑作でした!
2020年劇場で見た初めての映画でしたがいきなり満足度100点満点です。
2020年を代表する一本。ではなく日本の映画史、アニメ史にも残る一本の大傑作だと思います。
完璧すぎるのでこの作品を基準に2020年の映画を見ていくのは難しい気がしますね。
作品の中身も凄いのですが制作過程や制作方法も普通のアニメとはかなり異なっているのがこの映画の特徴ですが、それらについては別の記事であらためて書きたいと思います。
また、今回は初日舞台挨拶の回を見てきました。その時の様子は以下でまとめています。
それでは行ってみましょう!!!
目次
アニメーション映画「音楽」あらすじ
不良高校生の研二がぐうぜん楽器を手に入れたことをきっかけに友人である太田と朝倉を誘いバンド「古武術」結成する。
それまで楽器をさわったこともなかった「古武術」のメンバーだったが、同じ高校でフォークグループとして活動している森田から町の小さな音楽フェスに誘われ参加することになったが・・・
アニメーション映画「音楽」予告編
スタッフ・キャスト・原作・上映時間など作品情報
監督・脚本・絵コンテ・キャラクタデザイン・作画監督・美術監督・編集
岩井澤健治キャスト
研二/坂本慎太郎
太田/前野朋哉
朝倉/芹澤興人
亜矢/駒井蓮
森田/平岩紙
大場/竹中直人
???/岡村靖幸原作
大橋裕之「音楽と漫画」上映時間
71分公開日
2020年1月11日
アニメーション映画「音楽」を見た感想
以下、ネタバレを含めた感想を書いていきます。
「音楽」には岡村ちゃんこと岡村靖幸さんが声優として参加されていますが、何役で参加しているかは秘密になっています。
そこだけは伏せたままにしておきます。
見た目はシンプルでも動きは滑らか
予告でも分かる通りこの映画のキャラクタは線が少なくとてもシンプルです。
しかし、動きはとても滑らかでぬるぬる動きます。
なぜかというと「音楽」はロトスコープという手法で制作されているからです。
ロトスコープとは初めに普通の映画のように実写で動画を撮影し、その後一コマずつトレースして絵におこしていく方法です。
ディズニーの白雪姫などはこの手法で作られました。
この手法はリアルで滑らかな映像が作れる反面、非常に手間がかかります。
なんせ一コマずつ書いていくわけですからね、一般的なアニメのような口をパクパクさせたり動きを省略したりといったことをしないという事になります。
それをこの「音楽」ではすべて手書きで行い原画は全部で40000枚という事ですから考えるだけで気が遠くなります。
これは完成したことが奇跡の作品だと思います。
アバンタイトルから良い
アバンタイトルとは作品冒頭の映画のタイトルが表示されるまでのシーンのことです。
「音楽」ではドライブインのようなところで不良少年たちと主人公研二との会話があり、そこから研二がテクテクと高校まで歩いていくシーンが長く続きます。
この研二が歩いている場面がかなり良かったです。
というか個人的に助かりました。
その場面を見ているとただ歩いているだけのシーンだけど、これを作るのにどれくらいの時間がかかったのだろう、と純粋に考えてしまうんですよね。
この作品を見ているとどうしてもこの「どれくらい時間がかかったんだろう」という制作側の苦労のことを考えてしまいがちなんですが、そっちに思考をもっていかれると肝心の物語が頭に入ってこないんですよね。
それが冒頭のただ歩くだけのシーンでそのことを考えることでそのあと物語が動き出した時には割とその苦労に関する考えは減ってように思います。
ただ、100%ストーリーに集中するということはできませんでした。笑
これは2回目以降見るときに補完していけばいいので個人的には問題なしです。
主人公の研二が持つ独特の「間」が面白い
「音楽」は制作過程が特殊なのでその話が前面に出がちですが、できあがった映画自体とても素晴らしいものになっています。
「音楽」は青春音楽映画なんですが、かなり笑えるんですよね。
個人的にその笑える一番の要素はこの作品独特の「間」でした。
主人公の研二はあまり喋らないんですよね。
会話でなにか質問されてもなかなか答えが返ってきません。
答えが返ってくるまでは基本的に以下のような画がずっと表示されたままになります。
時間は5秒から10秒くらいですかね。
実際はもっと短いのかもしれませんが体感的にはそれくらい長く感じます。それが面白いんです。
研二の答えを待っている長い「間」は劇中何度も出てくるのですが、これがだんだんと癖になってきて後半ではこの「間」が出てくるだけで笑ってしまいます。
一番好きなキャラクタは森田でした
研二たちはバンド「古武術」を結成します。
しばらくすると同じ高校の中に「古美術」というなんとも紛らわしい名前で活動しているグループが存在していたことを知ります。
調べてみると「古美術」とは3人組のフォークグループでした。
この「古美術」のフロントマンが森田という人物です。
森田はひたすら音楽が好きな高校生でCDを3万枚も持っており、まさに音楽=人生といった人物です。
研二たち「古武術」はロックバンドで「古美術」はフォークグループ、ジャンルこそ違いますが、お互いの演奏を聞きお互いの音楽性に感銘を受けます。
研二たちの演奏を見て森田がどれほどの衝撃を受けたのかアニメ的な映像で表現されるのですがここは必見です。
さまざまな洋楽アーティストのCDジャケットのオマージュ満載で見ていてほんと楽しい映像になっています。
これは音楽知識が豊富な森田の音楽観がどれだけ揺さぶられたのかを表現しているのでしょう。
「音楽」の登場人物は全体的に感情をあまり表に出さないんですよね。
しかしこの森田だけは感情表現豊かなので一番わかりやすく感情移入もしやすい人物になっていました。
劇中で一番変化するのもこの森田ですかね。
この森田はフォークをやっていましたが研二たちの影響を受けてか少しずつ音楽性がロック寄りになっていくんですね。
「古美術」3人で路上ライブをしながら自分たちが参加する地元の音楽フェスのビラを配っている場面ではフォークを弾き語りで歌っていますが、誰も足を止めずビラを受け取る人がいません。
その状況を見てからから突然感情のままにフォークギターをかき鳴らし始めます。
フォークギターをかき鳴らしている時の描写も面白く通常は線を少ない人物がこの時は非常に線が多く滑らかに、そしてダイナミックに描かれます。
その映像には見入ってしまうのですが、それは街の人々も同じでフォークギターをかき鳴らす姿を見た人々は足を止め森田の姿に見入っていきます。
この様子は一瞬予告編にも出ていますが是非劇場で見ることをオススメします。
そこから森田は楽器をエレキギターに変えロックミュージシャンとしてフェスに参加していく事になるのですがその姿は純粋にカッコ良かったです。
リコーダーでも立派なロックになる
研二たちのバンド「古武術」はベース二人とドラムという変則的な構成です。
クライマックスのフェス当日、研二が会場に向かおうとすると近くの高校の不良である大場に絡まれ自分のベースを失ってしまいます。
そこで研二が代わりの楽器として使うのが縦笛です。そうまさかのリコーダーです。
しかも研二はなぜかリコーダーを吹くのが超うまいという若干卑怯にも思える展開になります。笑
ピロピロリコーダーを吹く姿は最初はお腹が痛くなるほど爆笑の連続です。
が、フェスでの演奏を見ているとだんだんと感動してくるんですね。
音楽で感動するのに楽器の上手い下手、楽器の種類は関係ないんですね。
そりゃ上手い方がいいに決まってますけど、凄く演奏が上手なのに何も響いてこないミュージシャンっていませんか?
だからその辺はあまり関係ないんですね。
「古武術」はベース、ドラム、リコーダーでしたがそれでもきちんとロックなんですね。
そしてこのフェスは映画のクライマックスになるのですが、これが素晴らしかった。
クライマックスのフェスシーンはボヘミアンラ・プソディーを超えた
クライマックスがライブになるのは音楽映画の定番です。
この映画のクライマックスも地元のロックフェスでの演奏シーンです。
近年の音楽映画だと「ボヘミアン・ラプソディー」もクライマックスはライブエイドでのライブシーンでしたね。
ボヘミアン・ラプソディーは私も大好きな映画ですが個人的には「音楽」の方が感動しました。
驚いたことにこのフェスシーンを作るために実際にフェスを開催しているんですよね。
普通そんな事しませんよね。
まずそんな事考えませんし、考えたとしても実際に実行する人はいないでしょう。笑
なぜそんなことを?と思っていたのですが、
実際にフェスを行うことでしかできない表現がされていました。
フェスでの演奏シーンではまさに音楽、「音を楽しむ」という表現をアニメでしかできない完璧な表現で表しています。
音楽は次元を超え、アニメから一瞬だけ実写映像が入ります。
実際にフェスを行いロトスコープという実写の映像をトレースする手法で作ったからこそできた表現ですよね。
アニメの中に実写を混ぜる演出というのはこれまでもあります。
「戦場でワルツを」や「LEGOムービー」なんかは実写を使う演出がありました。
しかし、この「音楽」ではそれらの作品とは違う効果を出しているなと思いました。
もうなんというか、フェスでの演奏シーンはほんと素晴らしくてずっと鳥肌が立っていました。
そして最後の叫びに近い歌声、見終わったあとに一番印象に残るのはあそこでしょう。
パンフレットは絶対に買った方がいいです
「音楽」のパンフレットはかなりおすすめです。
100ページの大ボリュームで読み応えバツグンです。
パンフレットというよりもガイドブックと言っていいでしょう。
スタジオではなく個人がアニメを制作するとはどういうことなのか、知れば知るほど完成させるまでどれだけ大変だったのかがわかります。
監督の作品に対する情熱や制作するする姿勢が周りの人を動かし、監督を支えていた事がわかりました。
このパンフレットを読むとまた「音楽」を見たくなりますよ。
まとめです
繰り返しになりますが「音楽」は本当に素晴らしい作品です。
音楽を扱った作品ではありますが何か新しいこと始めるチャレンジする時に「初期衝動」という言葉がありますが、この作品は初期衝動の塊だと思います。
最近では「この世界の片隅に」「カメラを止めるな!」のように公開規模が小さくても本当に面白いものはヒットするケースが増えてきてますのでこの作品もなんとかヒットしてもらいたいです。
おしまい。