「女王陛下のお気に入り」を観てきました。
毎年2,3月は2月にアカデミー賞がある関係でアート系の賞レース狙いの作品がまとまって公開されます。この映画もそのようなアカデミー賞関連の一本です。
それらの作品はアメリカではだいぶ前に年に公開されており、既にブルーレイが発売されているような状態なんですよね。そんな中、日本では周回遅れのように公開されるんですね。
これは日本で「アカデミー賞○部門受賞!」とか箔がほしいというか宣伝文句に使えるからだったりするのですが、正直そんなことよりも海外と同じタイミングで公開してもらいのです。というのが本音ですが公開してくれるだけでもありがたいと思うようにしないといけませんね・・・
少し話が逸れましたがこの「女王陛下のお気に入り」ですがゴールデン・グローブ賞を始め数々の賞レースを賑わせている一本です。
この映画の一番の見どころはやはりオリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズ、エマ・ストーンの三人の大物女優の競演ですが、ほかにも良いところがたくさんある映画でした。
実際にみてどうだったのか、それでは行ってみましょう!
目次
予告編
作品情報・スタッフ・キャスト
監督
ヨルゴス・ランティモス
製作
セシ・デンプシー
エド・ギニー
リー・マジデイ
ヨルゴス・ランティモス
キャスト
オリヴィア・コールマン/アン女王
エマ・ストーン/アビゲイル・ヒル
レイチェル・ワイズ/レディ・サラ
ニコラス・ホルト/ロバート・ハーリー
ジョー・アルウィン/サミュエル・マシャム
原題
The Favourite
上映時間
120分
「女王陛下のお気に入り」を観た感想
歴史の知識はなくても問題なし
あらすじにも記載がある通り、この映画は18世紀初頭、フランスとの戦時下のイングランド、その宮廷内でのお話です。
そんな時代の映画なんですが、まずはじめに大きな声で言いたい事があります。
この映画、歴史の知識は一切不要です!!
歴史物は小難しそうだから・・・と敬遠しているそこのあなた、全く難しくないですよ!
なんでもアン女王はイングランドでもかなり知名度が低いそうです。
アン女王を演じたオリヴィア・コールマン本人やサラ役のレイチェル・ワイズの二人はイギリス人ですがアン女王の事は知らなかったとインタビューで話しています。
イギリスの人ですら知ってる人が少ないんですから他の国の人は知らなくて当たり前ですよね。
さらに劇中は基本的に宮廷内だけ、いってみたら国の内側の世界の話だけで外の世界の様子は(戦争中なのに)全く出てきません。
歴史物ではありますが描かれるのはハングリー精神をもった人物の成り上がりの様子や権力争いなど時代に関係のないとても普遍的なものです。
だから話はそのまま時代設定を現代に置き換えても成立する内容になっているので「歴史物」の作品にあるイメージは捨ててもらって大丈夫です。
女王の寵愛をめぐる女性二人のバトルが必死すぎて笑えます
一言でまとめるとこの映画は宮廷内で女王の寵愛を受けるために二人の女性がバトルを繰り広げるお話です。
女王自身もその二人の気持ちを知っており、気まぐれに片方に肩入れしてもう片方を嫉妬させるような態度をとるんですね。
元々女王に仕えていた女官のサラはアン女王と幼馴染で親しかったことを利用しています。病気がちで政治に興味がないアン女王を自分の意のままに操ることで実質的に政策を決めているのはサラでした。そしてアン女王とサラはただの幼馴染ではなく女性同士として親密な関係にもありました。
そこへかつて貴族だったものの、没落した女性アビゲイルが自分を侍女として雇ってもらいたいと宮廷を訪れます。
アビゲイルはなんとかしてかつての生活を取り戻そうと侍女からのし上がっていこうという野望を持っています。
最終的にアビゲイルはサラの立場を脅かす存在になっていくのですが、そのなりふり構わず成り上がろうとするエピソードが笑えます。
サラも自分の地位を守るためアビゲイルを執拗に攻撃していきます。その必死さがとにかく良いです。本人は必死でも外から見ると滑稽にみえてしまう事ってありますよね。
サラとアビゲイルのバトルについて、この映画を観た人の感想で「宮廷版の昼ドラ」だとか「女同士のドロドロ劇」みたいな感想をいくつか見ましたが、私個人はそうは思いませんでした。
むしろ清々しさすら感じ、いいぞもっとやれ!と思ってしまいました。笑
実はこの映画は他にも笑えるシーンが結構ありまして、コメディ映画でもあるんですね。現にゴールデングローブ賞では「ドラマ・コメディ部門」で受賞していたりします。
笑えるのは二人のバトルだけでなく劇中に登場する男たちにも当てはまります。この映画に出ている男たちは見た目が気持ち悪い人が多いです。カツラと白塗りをしているのでまるでピエロのようです。
「女王陛下のお気に入り」になる為に自分を押し殺しているせいでストレスがたまっているのか、アビゲイルは女王がいないところでは自分に近寄ってくる男たちに悪態をついたり暴力をふるったりと生活態度がかなり悪いです。
よく考えると男たちはかわいそうではあるのですが、見た目が気持ち悪いのでそんなに嫌な気持ちにはなりませんでした。しかしアビゲイルはなぜそこまでして、自分を押し殺してまで自分の地位をあげたいのか・・・私には理解できません。
衣装・美術・映像だけでもチケット代の元がとれます
この映画は宮廷内のお話という事だけあって、出てくる衣装や美術が素晴らしいものばかりです。
衣装を手がけているのはこれまでアカデミー賞11作品でノミネート、そのうち3作品で受賞しているサンディ・パウエルです。ほんと主役3人の衣装はすばらしかったです。そして個人的にはある主要人物が着る眼帯の衣装が超カッコよくて痺れました。
衣装だけでなく美術もとても華やかなんですが、実はこの映画はどちらかというと低予算映画なんですよね。
それでも映像はとても豪華です。それはなぜか。
その理由はセットではなくお城を借りて撮影したからです。すべて本物を使っているんですね。実際のお城を借りればセットを作らなくて良いですし、借りた方が安く済む、そして本物だから映像に説得力もでますからね。良い事づくめです。
そして映像も魚眼レンズで撮影されるシーンと広角レンズで撮影したシーンがとても印象的です。特に魚眼レンズの映像は人間関係や政治の歪みを表しているようにも見えました。
とにかく出てくる映像一つ一つがクラクラするくらい自分好みでした。
ラストシーンの意味とは・・・(ネタバレ)
最後にいきなりネタバレ的な内容になります。
この映画の一番最後のシーンでアビゲイルはアン女王にひざまずき、アン女王の顔、アビゲイルの顔、そしてウサギたちの映像が重なり溶け合うようにして終わっていきます。
アン女王は17匹のウサギを飼っていました。これは自分の子供達の代わりとして飼っているんですね。アン女王は6度の死産(その中には双子もいた)と6回の流産、無事生まれた子供も12歳頃亡くなってしまうなど非常に辛い経験をしている人でした。
ウサギはその子供たちの代わりとして飼われているんです。
そのウサギたちとアビゲイルの顔が溶け合うようになる、という事はアン女王にとってアビゲイルはウサギの中に1匹にすぎないという意味なのかもしれません。まるで「あなたがいくらあがいてもこのウサギのように私の足元で生きていくしかないのよ」と言ってるように感じました。
これはあくまでも私の解釈です。
万人にオススメしたい一本
すべてを説明するわけではなく観客に考える余地を残して終わっていくのは実に映画的で楽しいです。観た人によって解釈は違ってきますし、1回目、2回目と繰り返し見る事でも考えが変わっていきます。
そして三人の女優の演技、ストーリー、美術や衣装に映像とどれをとっても一級品。なんとも贅沢な一本です。敬遠せずに是非観てみる事をオススメします!