映画ファンの間で公開前から話題だった映画「THE GUILTY ギルティ」を観てきました。
私が観たのは公開二日目だったのですが各上映回が数時間前には満席になっているほど大盛況でした。
この映画はデンマークの映画ですがもう少しで第91回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートまであと一歩のところまで行くなど評価も高く、ハリウッドでジェイク・ギレンホール主演でのリメイクが決まっています。
上映時間は90分ほどで短めではありますが、観ている間は想像力をフル回転させるので観終わった後はかなり疲れました。
感想・考察について書いてみたら少し長くなってしまったので前置きは短めにして、行ってみましょう!
※この記事では後半にネタバレを含んだ内容を書いています。
該当箇所でもあらかじめ「ネタバレ」と記載しているのでご安心ください。
目次
「THE GUILTY ギルティ」の予告編はこちら
作品概要・スタッフ・キャスト
監督
グスタフ・モーラー
脚本
グスタフ・モーラー
エミール・ナイガード・アルベルトセン
キャスト
ヤコブ・セーダーグレン/アスガー・ホルム
イェシカ・ディナウエ/イーベン
ヨハン・オルセン/ミカエル
オマール・シャガウィー/ラシッド
原題
Den skyldige
上映時間
88分
「THE GUILTY ギルティ」を観た感想
緊急通報司令室の中だけで話が進むワンシチュエーション映画
「THE GUILTY ギルティ」の舞台は緊急通報司令室、日本でいうと110番が掛かってくる場所です。
主人公はその緊急通報司令室のオペレータであるアスガーという人物です。
そこへある女性から「自分はいま誘拐されてどこかに連れて行かれている」という通報を受けた事から、アスガー自身の運命にも影響を及ぼす事件に関わっていくことになります。
映画は全編この緊急通報司令室の中でのみ進みカメラは一回も部屋の外に出ません。
そして主人公アスガーと電話の相手との会話だけで物語は展開していきます。そのため、劇中のほとんどが電話をしている場面でスクリーンに写っているのは主人公の顔のみです。
予告編はアスガーが電話している場面だけですが、これが全編通して続きます。
この映画のように舞台が限定的な作品は「ワンシチュエーション映画」と呼ばれています。これまで多くの作品が作られており一つのジャンルとして成立しています。
ワンシチュエーション映画について。
大人気ホラーシリーズ「SAW」の1作目や「CUBE」などが有名ですが、
他にも棺桶のような箱に閉じ込められた男の運命を描く「リミット」や
スキー場で止まったリフトの上に取り残された三人の若者の運命を描く「フローズン」
PCの画面だけで物語が進む「サーチ」もワンシチュエーション映画に当てはまります。
情報が限られているため緊張感が高く集中力が必要
この映画では情報源は電話相手が話す言葉や受話器から聞こえてくる音だけです。観ている観客は主人公とまったく同じ状況を体感する事になります。
相手の顔や情景が見えず、情報が限られている事から電話の先がどのような状態になっているのか自分の頭の中でイメージしていくことになります。そしてこれはデンマーク映画なので言葉がわからない場合は会話の内容も字幕でしか知ることができません。
ですからデンマークの人以外は音と字幕で情報を得ることになり、主人公よりも不利な状況になります。
そのため、観終わった後は、まあ疲れました。笑
スクリーン上ではほぼ主人公の顔しか写っていないにも関わらず、観終わったあとにはその印象がほとんどないから不思議です。
音と字幕だけの情報でも自分の頭の中で電話先がどのような状況なのか常に想像しているのでそのような印象なんでしょうね。人が頭の中で想像する映像はCGを超えるのかもしれません。
この映画は88分なので普通の映画よりは短いですが、個人的にはこの時間が限界だったかなと思います。これが120分あったら見終えた時にはげっそりしていたかもしれません・・・
とはいえ音声だけの情報しかないだけで、ここまで緊張感があるのかとこれは初めての体験でした。
劇中の謎は事件の顛末だけではない
観ている間は2つの謎があります。
一つ目は誘拐された女性はどうなるのか?という劇中リアルタイムで進行していく誘拐事件の顛末です。
そして2つ目は主人公アスガーの過去についてです。
このアスガーさん、何やらただのオペレータではなさそうなんですね。
オスガーさん、とりあえず勤務態度が悪いです。笑
周りの同僚に対してコミュニケーションを取らないだけでなく相手を見下したような態度をとっています。
その様子から「俺はこんなところで仕事をする人間ではない」と思っているのがビンビンに伝わってきます。
そして映画の冒頭に2件の通報に対して対応する様子があるのですが、そのときの対応が非常に悪いんです。まあ相手も良くなくて、一人目が薬の中毒者からの通報で二人目が売春した相手に物を盗まれた人からの通報という、良くない事をした人からなんですね。
そんな通報者に対してアスガーさんは「自業自得だろ」と言って勝手に電話を切ってしまったりするんですね。
ただ、正義感だけは人一倍強いのは間違いないようで誘拐事件に関しては全力で通報者の女性を助けるために奔走します。
と、少しでも悪ことをした人に対しては断罪されるべきという正義感というか信念のようなものを持っているようです。
そんなアスガーさんですが過去に何かあったようで、上司との電話で「明日の証言が終われば復帰できる」だとか仕事の相棒という人物との電話で「早くまた一緒に仕事がしたい」というような会話をしています。
その過去の影響なのか奥さんも家を出て行ってしまっているのですがアスガーさんは結婚指輪を外しておらず未練タラタラのご様子。
さらにアスガーさんはその過去の何かのせいでオペレータの仕事せざるを得ない状況になっているようですが、それがどういった事なのかが重要なポイントとなっていきます。
「THE GUILTY ギルティ」ネタバレ全開の感想と考察
以下、劇中の事件の顛末を含めたネタバレを含んだ感想、考察です。
ネタバレを見たくない方は飛ばしてください
事件の真相から見える「THE GUILTY ギルティ」からのメッセージ
この映画の大きなどんでん返しは通報してきた女性、イーベンが実は犯人だったという事ですが、この作品はそれだけで終わらないことが評価されているポイントだと思いました。
誘拐事件(と当初思われていた事件)ですが実際はイーベンが精神的な病気を患っており、彼女が自分の子供を殺してしまいました。(イーベンは子供のお腹の中にヘビがいると思い込んでおり、助けるためにヘビを取り出そうとナイフでお腹を切り裂いていた)
元夫がその現場を見つけ、精神病院にイーベンを連れて行こうとしていた、というのが真相でした。
その移動中にイーベンが通報、そしてその通報を受けたのがアスガーだった事から厄介な状態になっていくわけです。
この事件については元夫は何も悪い事はしていないのですが、前科があったことからアスガーの歪んだ正義感・先入観から妻を誘拐して子供を殺した犯人だと決めつけられてしまいます。
私はこの映画で一番重要なのはどんでん返しではなくこの部分ではないかと思います。
アスガーのような先入観・思い込みは誰にでもありますよね。
映画を観ている観客はアスガーと同じ体験をしているわけで、元夫が犯人だと思った人はある程度いるような気がします。(とはいえこれは映画ですから別に犯人がいるんだろうな、と思いながら観ている人が多いですかね。)
映画でなく現実世界のニュースで何かの事件の容疑者が逮捕された報道をみたら真実は関係なくもうその時点で「この人は悪いことをした」と思ってしまう人が多いと思います。
私はそのような人間の先入観・思い込みもしくは偏見に対する警鐘をならすのがこの映画から受け取れるメッセージだと思いました。
主人公アスガーの過去の事件
アスガーは前科持ちである元夫を犯人だと決めつけます。映画冒頭の2件の通報での対応から判るように罪を犯した人に対するアスガーの対応は冷酷非常です。
それは過去にアスガーが関わった過去の事件にも当てはまります。
クライマックスでイーベンは自分が子供を殺してしまった事に気づき、自ら命を断とうとします。アスガーは過去に関わった事件で犯人を射殺していた事を告白します。
イーベンは自分でも気づかず殺意がないのに子供を殺してしまった「悲劇」であるのに対し、自分は自分の正義のため、悪を許す事ができず自らの意思で犯人を射殺した「殺人」である、と。
その出来事があったため、現場から外され緊急通報司令室に配属となった事が推察されます。
そして犯人を射殺した事を正当防衛であると翌日に控えた法廷で主張するつもりだったという事になります。上司や相棒との会話から警察の関係者には口裏を合わせるようにしていた事も判ります。
しかし、自分の先入観のせいで誘拐事件が複雑な結末を迎えた事によりアスガーは自分の犯した罪と向き合う事になります。
イーベンは最後はアスガーの説得の効果もあり自殺する事なく警察に保護されます。
そしてアスガーは正当防衛であるという主張ではなく殺人であったと罪を認める事を決意して緊急通報司令室を退室します。
そして部屋を出る直前、最後に誰かに電話をかけるところでエンディングを迎えます。
その電話の相手は私は出て行ってしまったアスガーの奥さんではないかと考えていますが、はたして・・・
ギルティ(有罪)なのは誰か?
映画を最後まで観れば有罪なのはアスガーだけである事が判ります。
しかし、先に書いたとおりこの映画は人間の先入観・偏見・思い込みに対する警鐘を鳴らしているのだと思っています。
そのため、アスガーだけでなくそのような先入観・偏見・思い込みを持つ事がギルティ(有罪)であると言っているのではないかと考えました。
観ている私たちも職業や立場は違えどオスガーとは何も変わらないですからね・・・
ワンシチュエーション映画を代表する新たな一本です
ワンシチュエーション映画は場面が変わらないので観ている人を飽きさせないようにするアイデアが必要です。そのため一発ネタになりがちなんですがこれは違いました。
この映画では最初から最後まで緊張感が途切れる事がないですし、謎と伏線の回収の仕方がとてもいい脚本でした。さらにはメッセージ性もあります。
そのため、おそらく2回目の鑑賞時が一番面白く感じるタイプの映画だと思います。
ただ、壮大などんでん返しを期待していると少し肩透かしをくらってしまうかもしれません。私自身もう一回くらいどんでん返しくるかなと構えながら観てしまいました。
ただ、事件の真相が判ったあとの展開で、これはどんでん返しで楽しませるだけの映画ではないと判り納得できました。
とはいえ観て損することはまずないのでおすすめです!!
棺桶のような箱に閉じ込められた男の運命を描いた「リミット」演じるのは「デッドプール」でおなじみのライアン・レイノルズです。
スキー場のリフトの上に取り残されてしまった三人の若者を描いた「フローズン」。
PCの画面のみで物語が進行する「サーチ」