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【映画感想】「運び屋」クリント・イーストウッドだからこそ伝わるメッセージ ネタバレありのレビュー

「運び屋」を観ました。

クリント・イーストウッドは個人的に一番好きな映画監督なので新作が公開されたら最優先で劇場に行ってしまいます。

そして今作は「グラン・トリノ」以来10年ぶりに自身の監督作で主演を務めるという事で近作の中でも特に期待して観にいきました。

今回も期待通り素晴らしい一本でした。そして鑑賞してみてなぜクリント・イーストウッド自身が主演を務めたのかとても納得いきました。

それはこの作品に込められたメッセージに関係していました。そのメッセージとは、いきなり書いてしまいます。

  • 家族との記念日をないがしろにするな
  • とにかく家族を第一に考えろ
  • 時間は買うことができない

これは実際に映画を観てみるとクリント・イーストウッドが言うのと他の俳優が言うのとでは説得力が全然違うことがわかります。そして破壊力があります。

それはなぜなのか。感想を踏まえて書いてみたいと思います。

それでは行ってみましょう!!

「運び屋」予告編はこちら

作品概要、スタッフ、キャスト

監督
クリント・イーストウッド

脚本
ニック・シェンク

音楽
アルトゥロ・サンドバル

キャスト
クリント・イーストウッド  /  アール・ストーン
ブラッドリー・クーパー  /  コリン・ベイツ捜査官
ローレンス・フィッシュバーン  /  主任特別捜査官
マイケル・ペーニャ  /  トレビノ捜査官
ダイアン・ウィースト  /  メアリー
アンディ・ガルシア  /  ラトン
アリソン・イーストウッド  /  アイリ

原題
The Mule

上映時間
116分

「運び屋」を観た感想、ストーリー解説

まずはじめに、この映画は予告編と本編とでだいぶ雰囲気が違います。

予告編を見ると重苦しい雰囲気の映画のような作りですが、本編ではそのようなシーンは後半までほとんどありません。

多くの場面では重苦しいどころか笑えてほのぼのしてるシーンです。

そのため、予告編だけで見る/見ないを判断はしない方がいいと思います。

主人公は外っつらだけは良いダメ夫、ダメ父

クリント・イーストウッド演じる主人公アールさんは90歳のおじいさんです。

仕事一筋で家族の事は二の次。いや六の次くらい家族をないがしろにしている人です。

そしてアールおじいさんはユリを育てる園芸家で、ユリ業界では数々の賞を獲っており誰もが知る存在でもあります。だから周りからかなりチヤホヤされているんですね。

特にデイリリーと呼ばれる花が1日で枯れてしまう種類のユリにが強いこだわりを持っていました。

(この映画のモデルとなったレオ・シャープさんは100種以上の新種のユリを開発しホワイトハウスに招待されたこともある人物だったそうです。)

そんな輝かしい実績があるアールおじいさんですが、家庭では逆に最低の人物でした。とにかく仕事が最優先で家にはほとんどいない人でした。

そして見栄っ張りな為、仲間がお金に困っていたりすると無理して助けてしまったりします。

どれだけ酷いのかは映画冒頭でとても分かりやすく描かれています。

映画の冒頭、アールさんは自分で育てたユリの品評会に参加しています。そこで見事に優勝するのですがみんなの前でスピーチをしていたりとても楽しそうにしている状況が描かれます。

そこでいきなり場面が切り替わります。そこは結婚式がまもなく始まる新郎新婦の控え室です。

なぜいきなり結婚式?と思っているとその新郎新婦を含め部屋にいる人全員が誰かを待っているのがわかります。そして会話の内容から新婦の父親がアールさんだとわかります。

そう、アールおじいさんは娘の結婚式に行かずにユリの品評会に参加していたのです。

普通の感覚だとまずありえない行動ですよね。しかしアールおじいさんにとってはそれが普通なんですね。家族よりも自分の好きな事を優先する、それがアールおじいさんの生き方なのです。

そんな人なのでもちろん奥さんや娘には嫌われていて口もきいてもらえません。

ちなみにこの娘役を演じているのはクリント・イーストウッドの本当の娘であるアリソン・イーストウッドさんです。

という主人公がどういった人物なのかが冒頭の10分程度で端的に描かれます。

アールおじいさん園芸家から麻薬の運び屋へジョブチェンジ

そんなアールおじいさんですが、インターネットでの販売をかたくなに行わなかったため業績が悪化、仕事を失ってしまいます。

お金に困っている様子をみてとある人物から荷物を運ぶ運転手の仕事をしないかと誘われます。それが麻薬カルテルの麻薬の運び屋である事など考えもしません。

「運び屋」というタイトルのとおり、それからは荷物を運んでいるシーンがメインとなるのですが、危険なはずなのになぜかほのぼのしていて、とにかく見ていて楽しかったです。

予告編とは違い、完全にコメディ映画のような雰囲気になります。

運び屋として就職するもしばらくは何を運んでいるか知らないアールおじいさん。

当初は1回しか仕事をしないつもりだったのが、思いの外お給料が良かったので続ける事になります。

そして何度か荷物を届ける事で自分が運んでいる荷物が麻薬であることを知ります。

しかし、荷物の中身を知ってもアールおじいさんは動じず、むしろ飄々としておりマイペースに荷物を運び続けます。

その主な理由はアールおじいさんのキャラクタです。運転中は自分の好きな曲を歌いながら陽気に旅を楽しんでいるようにすら見えます。

また道中も自分が好きなサンドウィッチ屋さんに寄ったり、ふらふらと自分の気の向くまま車を走らせます。それは正に自分のやりたい事だけをやってきたアールおじいさんの人生を表しているように見えます。

予想できないルートで荷物を運ぶため、警察の捜査の目もかいくぐって荷物を運ぶことを次々と成功させ、運び屋として天才的な才能を開花させていく事になります。

状況は少しずつ悪くなっていく

運び屋としての仕事を成功させていく事で次第に運ぶ荷物の量も増え、1回に運ぶ量が数億円相当になります。

またアールおじいさんの活躍は麻薬カルテルのボスの耳にも届き、ボスの家に招待されるようになります。

知らず知らずのうちに後戻りできないような状況になっていくんですね。このあたりは海外ドラマの「ブレイキングバッド」に少し似ているなと感じました。

そして重要な荷物を運んでいる途中でアールおじいさんに孫娘から一本の電話が入ります。奥さんが大病を患い残りの命が短いというのです。そのためすぐに病院に来てもらいたいと言われるのですが荷物の運び途中なので行くことができません。

しかし、数日後運び屋の仕事をすべて投げ捨てて奥さんの元へ会いに行きます。

そしてこれまで自分勝手に生きてきて家族をないがしろにした事を謝り、奥さんと娘に許してもらいます。

90歳で謝って許してもらうとか、はっきりいって遅すぎるわけですが「何歳になっても遅すぎるという事はない」というこれもメッセージなのかなと受け取りました。

それから間も無く奥さんは亡くなり、アールおじいさんも警察に捕まってしまいます。

デイリリーが1日だけ花を咲かせるようにアールおじいさんも最後に一瞬だけ正しい行いができたんですね。

アールおじいさん=クリント・イーストウッドからのメッセージ

先に書きましたがアールおじいさんの役を演じているのはクリント・イーストウッドの本当の娘さんです。

その娘が家庭をかえりみない父親に対するセリフひとつひとつが演技なのかセリフなのかがわからないレベルなんですよね。

なぜならクリント・イーストウッド本人もほとんど家に帰らない人でした。

まあ、家に帰らないといいますか、結婚が2回、5人の女性との間に8人の子供がいるような人ですからね。

そしてそんなクリント・イーストウッドが演じているアールおじいさんですが、劇中若者たちに対して様々なメッセージを伝えていきます。

それがこの記事の冒頭に書いた3つの事です。

  • 家族との記念日をないがしろにするな
  • とにかく家族を第一に考えろ
  • 時間は買うことができない

クリント・イーストウッドは今回10年ぶりに自作で主演を演じる事を決めた理由として「他の俳優が演じる事でメッセージが正しく伝わらない可能性があるため自分で演じる事にした」

と話しています。

確かにこれらのメッセージをクリント・イーストウッド以上に伝えることができる人はいないでしょう。説得力が違います。

劇中ではアールおじいさんのセリフではありますが、観ている側としてはクリント・イーストウッドからの家庭を持つすべての男たちに対するメッセージのように受け取りました。

わたしも映画館ばかり行ってないで家族との時間も大切にしなければいけないなと気持ちを新たにしました・・・

おしまい。